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政治経済の動き

世界と日本の政治経済の考察

南シナ海仲裁裁判

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条約当事国を拘束する判断―中国への逆風

 

 

2016年7月12日仲裁裁判所は中国が主張している九段線の法的根拠と人工島による排他的経済水域に基づく海洋権益は認められないとする判断を下した。

 

九段線

中国は1950年前後から自国の地図に南シナ海を囲む9つの線である九段線を描き始め、これを根拠に南シナ海は自国のものであると主張し始めた。さらに7つの人工島を建設し一部軍事拠点化している。しかし、南シナ海は中国、台湾、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、ベトナムなどに囲まれた海域であり、原油輸送などで重要な交通路、石油など海底資源も豊富である。これらの国はそれぞれ国連海洋法条約加盟国であり、いずれも領海の設定や経済水域を主張できる。

 

フィリピン漁船の排除

中国は人工島からの排他的経済水域を根拠にフィリピン漁船を武力で排除した。これに対して、フィリピンは国際司法裁判所に判断を委ねたいと中国に提案したが、中国はこれを拒否した。国際間の紛争は通常国際司法裁判所で判断されるが、裁判を始めるには当事国双方の同意が必要である。

 

仲裁裁判

中国は南シナ海に7つの人工島を造成している。施設の建設を急ピッチで進めており実効支配の既成事実化を狙っているのではないかと指摘されている。これに対してフィリピンはこのような人工島には排他的経済水域は存在せず、海洋権益は認められないと主張した。裁判の焦点は中国独自の九段線の主張とこれに基づき中国が造成した人工島に海洋権益が認められるかどうかであった。仲裁裁判所が判断の根拠として、中国もフィリピンも国連海洋法条約の当事国であり、国連海洋法条約は沿岸国は九段線より先のところまで領海を設定し経済的排他水域を主張出来るとしている。

 

判断内容

仲裁判断において、中国の九段線の主張は国連海洋法条約の制度に反しており、両国が当事国である限り中国の主張は認められないと判断した。中国は航行とか漁業とか島などに対して歴史的に長い間権限を行使してきたと主張したが、仲裁裁判所は何ら証拠は無く、これにより九段線の中国の主張は認められないと判断した。

 

国連海洋法条約

条約では島の場合は領海が設定でき経済的排他水域が主張できる。一方人間が住めない岩では領海は設定できるが、排他的経済水域は認められていない。さらに潮が引いた時のみ海面に現れる低潮高地は領海も排他的経済水域も認めらていない。岩や低釣行地を埋め立てて人工島にしても主張できる權利は変わらない。

 

フィリピンは中国が造成した人工島は島ではなく岩もしくは低潮高地であるとして、国際法に基づく判断を求めた。これに対して仲裁裁判所は中国の人工島は4つの岩と、3つの低潮高地に作られたと判断した。

 

中国の反応

中国としては最悪の結果が出た。中国外務省は判断が示された後、直ちに判断は無効で拘束力はなく、中国は判断を認めないとする声明を出した。南シナ海への進出は習近平指導部の重要政策であり、裁判所の判断に対する批判の矛先が政府や党に向かうことを強く警戒している。

 

中国の法的根拠が否定されたことで、国際世論により今後の行動に一定の制約が課せられるが、習近平政権は中国の海洋政策を根本的に変えることなく、南沙諸島で行っている人工島の建設を続行するものと思われる。

 

フィリピンの反応

フィリピンのヤサイ外相は画期的な判断だと歓迎し、狙い通りの展開になったと受け止めている。その一方で中国への配慮する姿勢も示している。ドゥテルテ新大統領は中国と融和的な姿勢であり、フィリピンは中国との関係の悪化を避け、今回の判断を最大限生かし、支援を引き出すために柔軟に対応することが予想される。

 

アメリカの反応

アメリカは平和的な問題の解決に向けた重要な判断だと評価する姿勢を示している。中国は国際法で許容する範囲を大きく逸脱していると批判しており、中国の主張する人工島による領海や排他的経済水域は認められないとする姿勢をとっている。今回の仲裁判断はアメリカの立場に沿ったものであり、中国に対する国際的な圧力を強めたいアメリカにとっては追い風となる。

 

アメリカは中国の反発が一時的なものにとどまらず、さらに挑発的な活動、行動等を繰り返すような対応に出ることを恐れている。中国がさらなる埋め立て、施設の軍事化や、防空識別圏を設定した場合はアメリカはこれを見過ごす事が出来なくなる。アメリカは地域の緊張が高まることを避けつつ、各国と協調して中国に対する牽制を強めていく事が予想される。

 

まとめ

  • 九段線による南シナ海の領有権主張
  • 人工島に基づく経済水域でフィリピン漁船の排除
  • 国連海洋法条約に基づく仲裁裁判提起
  • 人工島に基づく経済水域は認められない
  • 中国に対する国際圧力
  • フィリピン新大統領の対中国融和姿勢
  • アメリカ主導の中国包囲網